人工衛星の撮影方法



人工衛星の形状を撮影するには専用の機材とノウハウが必要になり、特に人工衛星の動きを追尾できる機材の性能が大きなカギとなります。 さらに人工衛星の見かけの大きさはとても小さく、望遠鏡の性能はもとよりその解像度が活かせるよう波面光学的知識が必要になってきます。 それでは撮影に必要な知識と機材をみていきましょう。

■人工衛星の追尾
人工衛星の動きはアメリカ防空司令部(NORAD)から定期的にTLEと呼ばれる軌道データが公開されており、これに基づいて赤道儀や経緯台をコンピュータ制御し人工衛星を追尾します。 ただし、人工衛星の多くは地球大気の摩擦影響を受けているため、TLEデータ精度が有効な期間は短いので最新のデータを使うことが必須となります。 それでもTLEの精度が十分高いわけではなく、目標の衛星が画面に入らないことはよくあります。 

■時間帯
人工衛星の形状がわかる対象はLEO(Low Earth orbit)と呼ばれる低軌道を回っている人工衛星になります。 LEOの地表高度は地球規模に比べ低いため、人工衛星に太陽が照射している日没から数時間が撮影できる時間帯になります。 朝方は逆に日が昇る数時間前が適してます。

■撮影機材
宇宙ステーションのように大きな衛星になれば肉眼でもはっきり見えるため赤道儀や経緯台のクランプをフリーにしてハンドフリーで撮影する方法もありますが、この方法では人工衛星が一番大きく見える天頂付近通過で追尾が難しくなります。 TLE軌道をもとに追尾できる赤道儀や経緯台で自動追尾することをお勧めします。
理論的には望遠鏡が大きければ大きいほど人工衛星の形を映しやすくなりますが、実際には大きい望遠鏡ほど大気の乱れを受けやすく波面が乱されて理論とは真逆で解像度が落ちやすくなります。 安定的に撮影できるのは口径10p〜20p、条件が良ければ口径30〜40pが適してます。

■準備
人工衛星のシャッターチャンスはほんの1〜2分間です。 極軸・同期・シャッター速度・ブレ・時刻・ピントなどちょっとしたミスがあってもやり直しする時間はありませんので、用意周到に準備をします。 国際宇宙ステーションが条件よく撮影できる頻度は月に1,2回程度です。

■コントラスト
人工衛星は宇宙空間にあるため太陽の光を直接受ける一方、太陽の当たらない面は真っ暗になります。 このことは地上の撮影と大きなところです。 地上の撮影では周囲の物体からの光がくるため影の部分も光が当たり全体像を見ることができますが、宇宙空間の撮影では周囲からの光がないため太陽が当たる面は明るく、影の部分は真っ暗になりコントラストの強い映像になります。 衛星本体が鏡面反射する場合などは一部しか光って見えないことがあります。  また地上から人工衛星を見たとき、月や金星を見たときの満ち欠けのように太陽側の側面しか見えないことも多いです。 惑星などと違って非対称な形をしているのでアングルによって見え方が変わってきます。 天体写真の要素のみならず、野鳥撮影や人物像撮影のようなスタイルが含まれます。

■天頂通過
恒星や星雲などはいつみても同じ大きさに見えますが、人工衛星は見える高さによって大きく見えたり小さく見えたりします。 最も大きく見えるのは天頂付近を通過するときです。 ここが最大のシャッターチャンスですので、子午線を挟んだ領域で撮影しやすいフォーク赤道儀がお勧めです。 ただし北極付近は動きが遅くなります。

■時刻精度
人工衛星は撮影しやすいものでも毎秒0.5度くらいのスピードで移動して見えます。 そのためパソコンの時間が1秒ずれていると0.5度のずれが生じます。 これは月面1つ分の大きさで、長焦点で撮影する場合このずれは非常に大きく画面に入ってこない大きな要因の1つになります。 インターネットで0.1秒程度の精度で時刻を合わせるか、追尾ソフトウェアの時間差パラメータを使って位置修正に努めます。

■緯度経度
観測値の緯度経度情報も時間と同じく正確に入力しておく必要があります。

■オートガイダー
人工衛星を惑星程度の大きさで撮影しようとすると数分角程度の位置精度が必要になります。 TLEだけではこの精度を達成するのは難しいのでオートがガイダーが必要になります。 残念ながら現在人工衛星用のオートガイダーの市販品はありませんが、当社ではSitech ServoII用に開発したソフトウェアがありますのでこちらをご利用ください。 ServoIIを使った赤道儀をお持ちでない場合は、当社のほうでミードLX200赤道儀をServoIIに対応させる改造を行っております。 併せてご利用ください。

■波面精度
望遠鏡の理論分解能を達成させるには、大気と筒内の両方の気流が非常に安定していることが必要です。 気温差は空気の屈折率を変化させる大きな要因ですので、観測前には望遠鏡のみならず観測所全体を外気温に馴染ませておく必要があります。 大気が安定していることも非常に重要で、気象データをもとにシーイングの良い場所で観測する必要があります。

■人工衛星の種類
人工衛星は数多くの種類があり、中には情報公開されていないものもあります。 最も大きいものは国際宇宙ステーションで、木星くらいの大きさに見えます。 次に大きいのが中国宇宙ステーションで、これら以外のものは非常に小さいものばかりです。 スターリンクは有名ですが、天体観測に支障があるとして最新のジェネレーションでは光学的にステルス性を持たせており、拡大撮影してもなかなか映りません。 旧ソ連時代のコスモスやそれらを打ち上げたロケットブースターは小さい中でも大きい部類で、良い機材と条件がそろえば形状をとらえることができます。 

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