宇宙監視に必要な機材と知識2025年現在

■25年の遅れ
25年前、アリゾナ大学の大学院でリサーチアシスタントの仕事をしていた頃、隣の席の軍人さんが面白い話をしてくれました。 日本の気象関係の人工衛星が不具合を起こしたのですが原因がわからないようで、アメリカ軍が地上望遠鏡を使って衛星を撮影したところ太陽光パネルが壊れていたとのことが判明し、日本の関係者に教えてあげたそうです。 どんな機材で撮影したのか聞いてみると、セレストロンのシュミットカセグレンC14にクワッドセンサを取り付け、1kHz程度の動作周波数でチップチルト制御を行い撮影したそうです。 システムの完成度は高く、Macのコンピュータ画面上でリストの中から目的の衛星をクリックするとズームアップして見れるんだよ、と教えてくれました。 口径35p程度のアマチュアクラスの望遠鏡でも軍レベルで十分通用し運用されているのです。
早25年、日本の現状はどうかというと、衛星の形状認識できる状態にはないようです。 口径60pにAOを付けた望遠鏡はあるようですが、使い方がわからないのか、全く機能していないようです。

■オートガイダー
近年のデジタル機器の性能はまさに日進月歩で、25年前のようにチップチルトを使わなくても高速シャッター・大量撮影することで惑星映像は従来の数倍の解像度で撮影することができるようになりました。 この技術を衛星撮影に応用できれば高分解能で衛星の形状を撮影できるのは想像できましたが、惑星撮影と人工衛星の撮影で最も大きな違いは追尾速度が桁違であることです。 惑星は1秒間に15秒角程度しか動かない(時計の短針の半分)ので赤道儀の恒星時追尾のゆっくりとした駆動で十分精度良く撮影することはできますが、人工衛星は低軌道のものになると1秒間に0.7度(時計の秒針の1/10程度)も移動するため、被写体を小さなセンサの真ん中に導入維持するのが困難です。 フルサイズカメラで画角を広く撮影することも考えられますが、転送レートを考えると惑星撮影と同等の連写スピードが求められます。
そこで当社ではビデオレートで対象位置を監視しながら位置修正を行う、いわゆるオートガイダーを開発し口径20p〜30p程度の理論分解能での撮影に成功しています。 1/100のコストで口径60pの半分の分解能が得られるのであれば非常に有効な手法です。 25年前のアメリカ軍と同等のレベルになったわけです。 ISSやCSSはもちろんのことStarlinkやCOSMOSといった人工衛星の形状を記録できるようになり、より一層宇宙監視の視野が広がってきてます。

■シーイング
日本は運の悪いことにジェット気流が上空を流れることが多く、気流が安定せず高解像度で天体を撮影する機会が多くありません。 ただ常にジェット気流が流れれいるわけではないので、空の状態が良い時には口径20p程度であれば理論分解能を達成します。 
多くの巨大望遠鏡がハワイに建設されている理由の1つは、ジェット気流の影響が少ないため口径1m程度でも理論分解能を満たす機会が多いからです。 口径8mの望遠鏡に補償光学系を付けて日本に設置しても理論分解能を得ることはできません。 
亜熱帯地域はシーイングが非常に良いのでサイパンやグアムに望遠鏡をもって惑星をみると、今まで見たことのない高解像度で観察することができます。 このことは惑星撮影をやっている一部のアマチュアの中では常識ではあるのですが、衛星関係の研究者は畑違いなのか全く知らないようです。 亜熱帯地域に限らず世界中シーイングの良い場所はどこにでもあるので、そこに40-60p望遠鏡を設置すればTLE追尾撮影するだけで衛星の形状を識別できるだけの十分な解像度が容易に得られます。

■民生品機材
人工衛星の観測では、特にISSなどが飛行している低軌道では民生品を流用することが主流です。 これはアメリカ軍のとある資料が教科書となって見習っているもので、日本独自の考えではないです。 衛星の位置を計測するには、数秒角程度の分解能と1/1000秒程度の時間精度があれば軌道データを確定することができるのが理由です。 民生品機材は低価格で入手しやすいのですが、欠点として24時間365日運用に耐えれるだけの品質にはありません。 ソフトウェア1つとっても32ビット時代に開発されたものが多く、長くても1か月程度しか安定動作しません。 また電気系統も家庭用電源に耐えれる程度にしか作られておらず、工場のような電力が大きく変動するような環境下ではノイズの影響で故障することが良くあります。 特にACモータからのノイズは強力で、電気フィルタだけでは対応できないケースが良く耳にします。

■光学系
民生品望遠鏡の中で唯一業務用と同等に安定しているのが光学系です。 屋内で使うか屋外で使うかで腐食の度合いは違うものの、光学研磨の精度や設計は民生品・業務用ともに大きく変わらず、むしろ画面中央だけでの性能を求められる点を考えれば従来の光学系で十分対応可能です。 フォトグラフスペックのようなハイエンド性能は求められておりませんし、非球面を多用しているスマホレンズやデジカメレンズのほうが圧倒的に高性能と言えるかもしれません。
ただLSST望遠鏡のように口径8mF1.2といった特殊な望遠鏡が登場したこともあり、光学設計によっては従来のスペックを大幅に上回る望遠鏡が出てくることは十分考えられます。

■D/F
Dは口径、FはF値としたあるファクタD/Fが衛星撮影のような移動天体には非常に重要なファクタであることがわかってきました。 人工衛星は各々独自の動きをもった天体であるため、点像に撮影できるケースはそう多くありません。 TLE追尾しているときや高速シャッター時のみ点像になり、それ以外では線状に映ることがほとんどです。 このため線上で検出するときの指標があると機材選びに役立ちます。 1画素上に衛星が映っている時間は焦点距離に反比例し、入射光量レートは口径の2乗に比例します。 この2つのことから、1画素に降り注ぐフォトンの数Pは P=k×1/f×D^2 となり、F=f/Dであることから、P=k×D/Fとなり、移動天体の明るさはD/Fに比例することがわかります。 D/Fが高いほどフォトンが多くなりどれくらい良く映るかを示すファクタです。
D/Fが高いのはシュミットカメラのようにF値が小さく口径が大きな望遠鏡で、現在市販品では次のようになります。

C14+HyperStar14 D/F=178(D=355mm F2.0) 
C11+HyperStar11 D/F=147(D=279mm F1.9) 
C8+HyperStar8 D/F=102(D=203mm F2.0) 
40cmF4ニュートン D/F=100(D=400mm F4.0) 
18cmF2.8ニュートン D/F=64(D=80mm F2.8) 
200mm F2.0 D/F=50(D=100mm F2.0)   
135mm F1.8 D/F=42(D=75mm F1.8) 
105mm F1.4 D/F=54(D=75mm F1.4) 
85mm F1.4 D/F=43(D=61mm F1.4) 

Fの明るい光学系は焦点深度が浅いため温度変化によりピントがずれやすいので、当社ではC11+Hyper11をカーボン改装したHyper11を製造販売しております。 

■関係サイト

カーボン製アストログラフHyper11
人工衛星用オートガイダー
人工衛星ギャラリー